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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

上達の秘訣 5 ~タンゴ(1)~

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タンゴはボールルームダンスの中でも人気の高いダンスです。スタッカートの効いた音楽にメリハリの効いた動き、そしてドラマチックで力強い表現は、見ていてワクワクドキドキ。見るものをとても興奮させます。パーティでもタンゴは必須の種目で、演技発表でも多くの方々が好んで踊っています。

私たちのボールルームダンスにおいて、「日本人の最も得意とするのはタンゴだ」という時代がありました。世界の競技ダンスでタンゴのカリスマが話題に上るとき、かつてのチャンピオン、田中忠・節子先生の名前が上がりました。わたしもアマチュア時代に忠先生から2回ほどレッスンを受けましたが、それはそれはとても熱い指導で、今でも教わったことをはっきりと覚えています。

さて、今回はそのタンゴの本質に近づくための話です。タンゴの音楽、それ自体は4拍子での演奏なのですが、ダンスとしてのタンゴはこれを「QQ!   Slow〜」というリズムに変換することで、スタッカートの効いた動きを作り出す工夫がなされています。タンゴは第1クイックにアクセントがあると言われる所以です。

加えて、タンゴをよりタンゴらしくするためには「初めのポジションの理解」が非常に重要になってきます。教科書には「壁に面して両足を揃えて立ち、両足をフラットに保ったまま左に1/8回転をし、同時に右足を5〜8cm後ろにスリップさせる。すると右足のつま先がおおよそ左足の土踏まずあたりに位置する」と記されています。この動作によって壁に面したその方向に左足を前方にステップすると、足の位置関係がCBMPになることが分かります。前方にステップした足の上をボディが通過することを防ぎ、QQ!   Slow〜とリズムを取ることで、4拍子の音楽でもスウィングの動作にならないよう工夫がなされているというわけです。

後退する時のウォークも通常の後退の動作とは少し違います。簡単に説明しますと、右足はまっすぐ後ろにつま先から後退ステップし、左足はボールのインサイドエッジでフロアにタッチするように後退します。タンゴは円周上を歩くような感じで、という説もありますが、まっすぐ後退するにも関わらず、左足前進ウォークがCBMPにステップされるポジションのために、この後退ウォークの工夫は意味を持ってきます。小さな注意点ではありますが、うまく踊るための案外知られていない大事なテクニックなのです。

 

タンゴの上達とは、タンゴ特有のリズムで

すべてのフィガーを踊れる能力を高めること!

話は変わって、イメージの話。タンゴはヒールバランスのイメージを持つ人も多いのですが、これはライズ&フォールがないという理由と、頑丈さが肝心ということから出てくるのでしょう。しかしこれは大きな間違いです。そもそもダンスは足の上に立って踊るもので、膝や足首のしなやかさが肝心です。ヒールを壁にくっつけて、その壁にお尻、肩、頭が触れたところから、お尻、肩、頭が10cmほど均等に離れるような動作をすると、膝にも適当な緩みを持ったボールバランスになっているはずです。これがボールルームダンスにおける最も基本的な立ち方で、このバランスから、スネを力点に、くるぶしを支点、ボールを作用点とする「てこの応用」が生まれるのです。

このバランスから初めのポジションを作る動作をした場合、右足のかかとにある壁から換算すると、背中は壁から15〜18cm離れていることになります。男性は右足を軸足に左足を第1歩とステップしますが、その軸足となっている右足にはほとんど体重はない状態です。陸上競技の短距離走でのクラウチングスタートとまでは言いませんが、軸足の右足には体重はかかっておらず、純粋に脚力が使える状態であることがお分かりいただけると思います。

リズムが「QQ! Slow〜」という考え方も、初めのポジションの理解によってステップがCBMPになることも、そして実際の体重の配分も考えると、タンゴは実に合理的にテンポに則り、膝下のフリックの動作でリズムをしっかり表現できるようになっていることが理解できるのではないでしょうか。

ただ、タンゴのプロムナードリンクのように、フィガーのタイミングが(タンゴのリズムとは真逆の)Slow QQとなっているときが問題なのです。このリズムは、スローフォックストロットの基本です。もしフィガーのタイミングだけで動いてしまっては、ライズ&フォールのないスローフォックストロットのようで、タンゴらしさは影を潜めてしまいます。フィガーのタイミングを完璧に身体で覚えた後は、タンゴの基本リズムであるQQ! Slow〜と取りながらSlow QQのタイミングで踊ってみる。これができれば、相当ハイレベルなタンゴだと評価されることは間違いありません。

タンゴの上達の秘訣は、ポジションの理解からくるポスチャーの正確さと、フィガーのタイミングと足の位置をきっちり身につけること。そしてフィガーのタイミングを変えることなく、タンゴ特有のリズムで全てのフィガーをQQ!   Slow〜と踊れる能力を高めることにあると思います。フィガーのタイミングをしっかり身体に覚えさせて、さあ、タンゴの音楽を身体いっぱいに取り込んで、生き生きと踊りましょう!! 次回は、タンゴのホールドや女性の仕事などについてお話したいと思います。

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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