【ダンスビュウ8月号DVDの見どころ】
創刊30周年を迎える今月号は、発売後2週間ほど経ちました。
今回のDVDは、なかなか評判が良いようです。講師は森脇健司・的場未恭先生です。
弊誌の付録DVDとしては、3回目の出演になります。
初回は「セクシーな背中」(2016年3月号)・2回目は「ピクチャークリニック」(2017年5月号)で、身体の部位とラインフィガーをテーマしたレッスンでした。
タイトルはダンスの強化書「ポジティブ・チェスト」。
「ポジティブ・チェスト」は造語ですが、直訳すると“積極的な胸部”という意味です。「胸部を上げ、堂々と踊りましょう」というメッセージをレッスン化した内容です。(表紙に注目。まさしくポジティブ・チェスト)
ダンスの経験者はもちろん、ダンスを全くやっていない方が、プロとアマを比較したとき、最初に目につくのが、胸部でしょう。
細かい点は抜きにしても、上手い方は胸が上がっている。
だから、積極的に堂々と見える。上手くない方は、胸が落ちている。なので、弱く緩く見える。また同じ踊り手の中でも、体調や状況に応じて変化します。力があるときは、胸は上がっている。疲れると、胸は落ちてしまう。
他者との巧拙の差、エネルギーの有無の目印は“胸部”にあり、ということです。
こんなに瞭然とした目印なのに、91回目を迎えた本誌DVDの中で初めての着眼でした。
「胸」なんて、当たり前すぎて、どなたも解説しなかったのでしょうか?
いや、そうではないです。胸を上げるというのは、結果として表出した形であって、内実は諸々の要素に支えられた複合的な姿勢です。
形だけ真似して胸だけを上げても反った姿にしかならない。固く苦しい胸になってしまう。簡潔・大胆なタイトルほど、広い問題を含むので、的を絞った繊細な説明が必要になる。だから時間の制約を受けるDVDレッスンは、テーマの設定と解説の按配が難しいです。
それはともかく、森脇先生が述べている「ポジティブ・チェスト」の真意は、ボディの張りと、張り使ったリード&フォローのことです。
張りとはもちろん筋肉のストレッチではありません。
随所で解説がありますが、下半身の安定、上下の軸の明快さ、体幹(特に下腹の)の強さ、背骨のしなりや肩甲骨の柔軟性、目のフォーカスポイント、自信、集中力など、諸々の要素に支えられてはじめて実現するものです。
この「張り」こそが、チェストをポジティブ足らしめる内実でしょう。
もちろん、形だけの話ではありません。身体の張りがあるからリードが素早く、真っ直ぐに伝達されるのです。ボディの張りについて、森脇先生は面白く的確に説明しています。
「緩んだ糸電話では、何を言っているか、伝わらないでしょう」と。
私見ですが、今年のアジアオープン選手権大会(アジアオープン&アジアクローズド)での森脇組のパフォーマンスは、ひときわ印象的でした。
曲がかかりはじめるや否や、すぐに踊りはじめる。周囲の大半の選手が、息を整え進むべき動線を探っている最中に、間髪を入れず一組だけフロアを回っているのです。短いインターバルで踊り続ける体力、勝負への気迫が、遠い客席で応援する筆者にも伝わってきました。
ライバルに先んじて、フロアを駆ける巡るダンサーは、スポットライトを追っているように、いや、スポットライトに追われているかのように、輝いて見えたのです。まさしくポジティブ・チェストの象徴でした。
いつも撮影の現場で感じることですが、DVDのテーマとは、単なるテクニックのレクチャーではありません。踊り手のパフォーマンスを深い部分で支える、魂の一種です。そのサムシングがあるから、ダンサーは人を魅了するのです。
僕らがDVDの視聴だけで満足するのは、実はもったいないことです。本誌のDVDは、ダンサーに関心を寄せるきっかけのひとつにすぎません。
ぜひ機会をつくり、試合を見に行って下さい。
そして踊り手のオーラにふれ、「ああ、これが森脇健司・的場未恭組のポジティブ・チェスト」だということを、皆さんも感じてほしいです。(DVD制作担当)