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9/29より公開の映画『運命は踊る』は、原題が〈FOXTROT〉

編集部の吉川です。
映画のマスコミ試写に行ってきました。最近、弊誌のSNSなどでも社交ダンスが出てくる映画を紹介したからでしょうか。「ぜひ観ていただきたい映画があります」ということでしたので。


映画は『運命は踊る』というイスラエルの映画です(制作はイスラエル=ドイツ=フランス=スイス)。ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ受賞ほかイスラエル・アカデミー賞で8冠という注目作品。
「あらすじ」はこんな感じです。

ミハエルとダフナ夫妻のもとに、軍の役人が、息子ヨナタンの戦死を知らせるためにやって来る。ショックのあまり気を失うダフナ。ミハエルは平静を装うも、役人の対応にいらだちをおぼえる。そんな中、戦死の報が誤りだったと分かる。安堵するダフナとは対照的に、ミハエルは怒りをぶちまけ、息子を呼び戻すよう要求する。

ラクダが通る検問所。ヨナタンは戦場でありながらどこか間延びした時間を過ごしている。ある日、若者たちが乗った車がやって来る。いつもの簡単な取り調べのはずが……。

…ダンス映画ではなさそうですね。
ではなぜダンスビュウ編集部に試写の案内が届いたのか。
それはこの映画の原題が『FOXTROT』というからです。

■運命を動かす〈フォックストロット〉のステップとは?

『運命は踊る』の原題でもあるフォックストロットは、1910年代はじめにアメリカで流行した、4分の4拍子、2分の2拍子の社交ダンス。19世紀末にアメリカでジャズの前身であるラグタイムと呼ばれる音楽が生まれ、これに合わせて生まれたダンスの一つである。小幅なステップで2人が組んで踊るもので、その後の社交ダンスの中心となり、ダンス音楽の代名詞ともなった。
ギリシャ悲劇を思わせるような3部構成から成り立つ本作のそれぞれのパートで登場人物らが語るフォックストロットのステップ。「前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、左へ、ストップ」――元の場所に戻って来る。どうあがいても、いくら動いても同じところへと帰って来る。動き出した運命は変えることができないということか…。

■〈フォックストロット〉それはイスラエルと日本のメタファー

ホロコーストと原爆という現代史におけるもっとも過酷なトラウマ―ホロコーストと原爆―を抱えた国としての共通点があるイスラエルと日本。サミュエル・マオズ監督は、現状がどうであれ、いまだ癒えないトラウマは世代から世代へと受け継がれて、我々は常に実存的な脅威と戦っていると思いこんでいるのだと語る。
「この世代ではトラウマのループを抜けて大きくステップを踏み出すんだと思っても、結局元のところに戻ってきてしまう。原題となったフォックストロットのステップはそんな我々の社会の象徴です」
フォックストロットは日本という国のメタファーであるとも言えるのではないか。

また、個人レベルでもトラウマは受け継がれているのだとサミュエル・マオズ監督は語る。「私もホロコーストを体験した母に育てられたので、『ホロコーストの体験に比べたらなんてことはない。文句を言ってはいけない』と抑圧され、辛さを封印して生きてきました」
本作ではフォックストロットから抜けて大きくステップを踏み出そうと登場人物らはある行動をとるが、果たしてこのループから抜け出すことはできるのか。それとも…。

〈フォックストロット〉は、人間が運命と踊るダンスであり、多くのヴァリエーションがあるが、すべて出発点に戻って終わってしまう。果たして、我々は愛でこのループを抜け出すことができるのか。本作で投げかけられた問いと驚愕の結末をあなたはどう受け止めるのか。ぜひスクリーンで確かめてみてはいかがでしょう。

という感じで、〈フォックストロット〉をメタファーにした作品らしい……というところまでを頭に入れて、試写で観てまいりました『運命は踊る』。

映画中で登場する〈フォックストロット〉のステップはいわゆるボックスステップの一種。四角形を描くようにして元の場所に戻るステップということから、ループする運命の象徴として2度ほど登場します。少々唐突な印象は否めませんが、映画そのものが、大きく場面が転換する三部構成、一切の説明を省いた映像描写、緻密で独創的なストーリーなどで “新感覚ミステリー”とも称される作品。アートシネマのような映像表現があってもそれは自然と溶け込んでいる印象。いわゆる謎解きミステリーではないですが、作品そのものが大きな意味でミステリーと言うことでしょうか。

さて、〈フォックストロット〉。前述の説明にあるとおり古い社交ダンスの種目で、ここから「スローフォックストロット」と「クイックステップ」に分化。英国で制定された10ダンス、つまり競技で踊られる10種類のダンスに採用され今日に至ります。
一方元々のフォックストロットは生まれ故郷の米国では踊り継がれており、アメリカンスタイル社交ダンスでは正式な種目として現役のダンスです(ヨーロッパや日本で一般的な社交ダンスは“インターナショナルスタイル”もしくは“イングリッシュスタイル”)。

サミュエル・マオズ監督はインタビューで「選べるダンスはほかにもあったと思いますが、なぜフォックストロットなのでしょう」という質問に対しこう答えています。

「偶然とは身を隠した神の仕業とアインシュタインは言いました。フォックストロットは、運命と踊るダンスなのです。多くのヴァリエーションがありますが、すべて出発点に戻って終わります。だからこれは私にとって典型的な運命のダンスに思えたのです。何が起ころうと、最終的には同じ位置に戻ってきてしまうのです」

〈フォックストロット〉はLOD(ラインオブダンス=フロアを反時計回りに周回する社交ダンスのルールの1つ)に沿って進むダンスですから、むしろこうしてその場にとどまるボックスのようなステップは一般的ではありません。〈フォックストロット〉については、日本の社交ダンスを知る方は〈ブルース〉をイメージすればよいでしょう。
ですから監督が語り、実際に劇中で踏まれる〈フォックストロット〉のステップは、私が知る社交ダンスの世界のものではありません。もしかしたらイスラエル(意外なダンス大国でもあります)で踊られる〈フォックストロット〉はそうなのかもしれません。

右足スタート、歩いて歩いて右斜めで揃える。下がって下がって左斜め揃える。という8歩の変形のボックスステップ

映画のチラシ、パンフレットには劇中の〈フォックストロット〉の足型図がデザインイメージとして使われています。また、8月25日より新宿武蔵野館に掲出されているオリジナル特大バナー前の床にはこの〈フォックストロット〉足型図があり、この通り踏むことでステップを体験できるようになっています。
しかし、私の観たところ劇中のステップも必ずしもこの通りのステップではありません。

また、劇中に出てくるダンスシーンは老人ホームでのサンバらしきダンスと、銃を持った兵士が踊るストリートダンス風のマンボで、〈フォックストロット〉ではありません。
ダンスシーンはちりばめられているものの社交ダンスの種類には無頓着な印象も受けます。それでも監督が映画のタイトルを〈フォックストロット〉としたのは前述のインタビューで応えている内容のほかに、語られていないこと、パンフレットなどでも紹介されていないことがあります。

それは〈フォックストロット〉が「フォネティックコード」の1つであるということです。
「フォネティックコード」というのは、無線通話などにおいて重要な文字・数字の組み合わせを正確に伝達するための規則です。使うのは軍隊だけではありませんが、よく戦争映画で「アルファからブラボーへ。チャーリーの救援に向かえ!」みたいな通信を交わしているシーンがありますよね。これアルファがA、ブラボーがB、チャーリーがCというもので、「A部隊からB部隊へ、C部隊の救援に向かえ!」という感じのことです。

「フォネティックコード」一覧についてはWikipediaでも見ていただくとして、〈フォックストロット〉は “F” を表すコードなのです。
劇中、戦地での通信シーンに「フォックストロットより○○へ」みたいなやりとりがありました。つまり〈フォックストロット〉は、ダンスでありながら戦争をイメージさせる言葉でもあるわけで、これがもう一つ監督が数あるダンスの中から〈フォックストロット〉を選択した理由なのではないかと推察されます。

が、実はもうひとつフォネティックコードの中には “T” を表すタンゴも入っているのです。ダンスがらみのフォネティックコードはこの2つ。
ではなぜタンゴではなくてフォックストロットだったのか。
タンゴにもループ構造のステップはあります。しかし、タンゴは世界中の人たちがイメージしやすいダンス(情熱的なイメージや音楽や地域性も)というところが、この作品に用いるには不向きだったのではないでしょうか。
以上、うちは社交ダンス雑誌ですので徹底的に原題の『FOXTROT』にこだわって解説してみました。

作品は悲劇と運命を描いた決して明るい作品ではありません。人によっては気持ちを強くえぐられるような体験をするでしょう。しかし、引き込まれるような映像美と迫真の演技力、そして構成の良さで113分はあっという間です。
あなたも〈フォックストロット〉の謎を解きに映画館に行ってみませんか?

9月29日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

『運命は踊る』〈FOXTROT〉
第74回ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ受賞
イスラエル・アカデミー賞2017 最多8部門受賞

監督・脚本:サミュエル・マオズ
出演:リオール・アシュケナージー、サラ・アドラー(『アワーミュージック』)、ヨナタン・シライ

2017年/イスラエル=ドイツ=フランス=スイス/113分/カラー/シネスコ
後援:イスラエル大使館
配給:ビターズ・エンド  www.bitters.co.jp/foxtrot/

© Pola Pandora – Spiro Films – A.S.A.P. Films – Knm – Arte France Cinéma – 2017


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