※月刊ダンスビュウ2022年7月号（82頁）に掲載

JDSF岩手 広報渉外部
千葉順子

「確かに受け取ったからね！」。盛岡駅で大船渡行きのバスに乗る岩手県ダンススポーツ連盟の出羽副会長から受け取ったものは、その日の大会映像がすべて入ったSDカードが3枚。これをもとに動画編集を行なうのが今回の私の仕事だ。果たしてこれには何が映っているのか、音楽は聞こえるのか。誰もまだ見てはいないのだ。はやる気持ちを抑えながらその晩から約5時間のSDカード×3との戦いが始まった。

2022年3月6日、このコロナ禍で、2年半ぶりのリアルの岩手大会が開催された。私たち岩手のオンラインチームは1年前のオンラインコンペの経験をもとに、なんとしてもリアル競技会の「YouTube配信」にこぎつけたいと密かに思っていた。その極秘データがSDカード3枚なのだ。

これまでの岩手大会ではフロアの四隅にそれぞれ2～3台ずつスピーカーを設置し、アリーナ階のどこにいても音楽も司会のMCも均等に聞こえていた。しかし今回は予算がない。音響は全て連盟備品で対応。音楽専用のミニスピーカー2台、司会用は認定会用のポータブルアンプ1台を司会席の横に設置。なんとかフロアでは問題なく聞こえるが、果たして録音可能な音なのか。諸事情から前日当日ともに私は会場にはいない。そのため中道会長自ら走り回り私とLINEでやり取りしながらカメラ位置を決定した。撮影機材もチームメンバー各自の家庭用のビデオカメラだ。音・音・音・どうする？

ここで我が中道会長の頭が閃いた。カメラ1台を音声だけのために回す！ 三脚の下から音楽を、背後から司会の音声をキャッチできる環境に設定。ダメ元で映像も使えるなら司会前はどうだろう？ それにしてもこんな小さいスピーカーとは恥ずかしいけれど、ええい！　これが岩手方式だ！

▲関係者全員の思いを乗せた岩手大会の動画となった（実際の映像は最後にあります）

それにしても、カメラ①の2階席からのデータのその音割れのひどさにクラクラした。あああ…どうしよう。しかし！ 会長の閃きが大当たり！ 音だけの予定の司会席カメラ②の音声はバッチリ。よし！　音はこれで行く。奇跡はそれだけではなかった。司会席カメラの画をみて息を飲んだ。なんと素晴らしくいい画がたくさん撮れていたのだ。司会席前カメラ②は迫力満点で選手が通過していく様を捉えていた。決勝の選手紹介ではカメラに向かって手を振りアピールしてくれている。出羽副会長の追っかけカメラ③も初経験ながらかなりの出来。これはいける！　あとはマルチ編集で私が料理するだけだ。

3台のカメラの音の同期は手作業で大丈夫、なんて思っていたが途中から音と合わせるのは至難の業と判断。そこでなんとか音を同期させるソフトを探しだし、そこからまた再作業。いよいよ3台のカメラのマルチ編集だ。実際の時間×4倍は使っただろうか。これまた寝食忘れて編集作業に没頭した。もう最後はラテンでは誰がどこで足をあげるかまでわかるくらい見た（笑）。

確認作業も動画と同じ時間がかかる。オンラインメンバーが全員3時間半の動画をしっかりと確認。B級スタンダードでは音ズレ発生でやり直しと容赦ないチェックがはいる。すべての画像が赤文字でエラー」や壊れていると表示され青くなりながらの確認作業が続いた。

三笠宮杯でのシンクロ権取得した曲だからいい曲が多い。大変だけど作業しながら選手仲間の踊りを見るのがまた楽しかった。A級決勝は、あの中道会長の司会で、あそこで踊りたかったなあ…出羽副会長に追っかけて撮ってもらいたかったなあ。YouTube配信してもらいたかったなあ。そんな思いの中、よし！　出場できなかった選手の方には自宅にいながらにして、あの場所にいたような錯覚がおきるような、そして何より一選手である私自身が一番羨ましく思えるような動画を作ろう！

▲【北の舞ちゃんねる】のロゴ

そして動画完成！　お金がなくても、まさしくひらめき1割、知識1割、情熱8割でなんとか奇跡的に乗りこえた！

前日も当日も私はあの会場にはいなかったけれど、編集しながら、出場選手、運営した連盟スタッフ、ほんとにみんなで作り上げた達成感で感無量だった。

2022年3月16日10時、この動画をJDSF本部のサブチャンネル【北の舞ちゃんねる】にアップし、岩手の公式LINEアカウントでお知らせしたとたん、想像すらしていないことが起きた。一斉に動画をクリックする音の嵐がしばらく鳴りやまなかったのだ。きゃあ！

未体験の感動に襲われ不覚にも涙腺が崩壊した。これが今回、頑張った私へのご褒美だったのだろうと思う。

■JDSF第34回岩手県ダンススポーツ大会 in 滝沢（2022年3月6日(日)　滝沢総合公園体育館）

協力：公益社団法人 日本ダンススポーツ連盟