【特別インタビュー】 SNSで話題沸騰中の「安福太郎」とは? 冬全チャンピオンの経歴を持つアナウンサーに迫る!
取材・文:山口遥生
写真:編集部
プロフィール
安福 太郎(やすふく たろう)
沖縄県生まれ、24歳、駒澤大学(競技ダンス部)出身。
現テレビ山梨アナウンサー。
「”楽しいを作り出す”それが、僕の存在意義」
そう語る安福太郎は、現在テレビ山梨にてアナウンサーの仕事を努める傍ら、SNS(Instagram, Tiktok)にて披露したダンス動画が大きな反響を得て一躍有名に。現在インスタグラムでは14.1万人、TikTokでは20.6万人ものフォロワー数を有する(2025年9月9日現在)。大学時代は競技ダンス部に所属。大学4年の冬には全日本学生競技ダンス選手権大会(通称:冬全)にて見事ルンバの部にて優勝を果たしている。そんな安福太郎の社交ダンスに対する想いとは———。
競技ダンス部との出会い
安福さんが競技ダンス部を知ったのは大学受験のとき。受験勉強の合間に見た志望大学の部活動紹介ページで知る。「大学入学前から競技ダンス部の存在は知ってはいましたが、あの時はまさか入部することになるとは夢にも思っていませんでした」と語った。
大学入学後、新入生歓迎会で競技ダンス部に勧誘された安福さんは、踊ると雰囲気の変わる先輩たちを見て競技ダンスに興味が湧いた。「いつもチャラチャラしている人が実はバイオリンが弾けるだとか、意外性のある人って惹かれるじゃないですか。そのとき自分も、実は競技ダンスやってるんですよって言いたいと思ったんです」と安福さん。そう話す彼の様子に好奇心旺盛な人柄を感じた———。
競技ダンス部がもたらした変化
彼が入部した1年後、2020年1月以降、世界中を襲ったコロナウイルスのパンデミックにより部活動も制限される。大学の施設は使えず、個人での練習が続く日々。大学2年から本格化するはずの競技ダンス部での生活はなくなり、自分自身で自発的に練習していかなければならなくなった安福さん。それまでの環境とは一変、先輩も仲間もいない中、1年間学んできたことを無にしたくないという気持ちから、自ら学んで上達していこうと決意。
「自分から学ぶアグレッシブさ、こんな経験もあってよかったなと高学年になってから感じました」と語る。安福さんにとって、ダンス上達のカギは、まさにそこにあったようだ。部活動という先輩や同期がいる環境ではなく、個の状態で自ら学んでいく姿勢がかえって安福さんに競技ダンスの楽しさ、尊さ、そして責任感を与えることになった。
コロナ禍での部活は極限まで制限されたが、オンラインでの練習会やオンラインコンペがあり、ロックダウンされた空間と人間関係の中でも、外に向けての活動を存続させていた安福さん。
コロナ禍が明け、安福さんが3年生へ上がるタイミングで、部活動運営を引き継ことになった。
新しくできた後輩に安福さんは、何か新しいことを始めよう、競技ダンスは知らないけど飛び込んでみようと入部してきた彼らに自分が1年生のときに感じていた孤立感をなくし練習を強制しない部活動運営を目指した。
「敷居が高いと言われる競技ダンスの世界に飛び込んできてくれた後輩たちに、後悔させてはいけないと思ったんです」と語る。安福さんは新入生に積極的にコミュニケーションをとり、楽しめる部活動作りに励んだ。ちょうどこの時期は、コロナ禍で新入生勧誘ができず、一つ下の代が抜けている状態。そのため一から部活動を作り直すことに努めたと安福さんは語る。
「これはひそかに自負していることなのですが、僕たちの部活動は駒澤大学競技ダンス部の転換期だったと思います」
それまでは勝つために踊らなければいけないという責務のような感覚があった部活動。その感覚を払拭し、部活動を”青春を送るためのプラットフォーム”にしようと取り組む。楽しいから踊る、踊るから楽しいと思えるような場所を目指したのだ。「”楽しい”を作り出すのが僕の存在意義であると思うので」と安福さんは言う。
安福さんが取り組んだ練習会の企画の一つに、当時流行していた「ジャンボリミッキー!」をみんなで踊るというものがあった。当時ディズニーリゾートのキャストとしても働いていた彼の十八番とも言える練習だ。「競技ダンスを初めてやる人はみんな、足がどう、ヒップがどうとかいったことをひたすらやって、結局ダンスの重要なもっと抽象的なイメージが持てない人が多いと思います。ですから騒いで踊る雰囲気から入って、ダンスって楽しいと思ってもらえたらいいなと思ったんです」
それまで全国レベルに到達することが難しかった駒澤大学競技ダンス部。ところが安福さんの登場から一転、東部ブロックでの決勝進出、全国大会進出を達成。さらには冬の全国大会(通称:冬全)にて優勝まで果たすことになった。大会の結果はもちろん、彼の姿勢に感化され、後輩たちも活躍を続け、全国レベルで戦える選手を多く輩出するようになった。
そして、安福太郎さんの競技ダンス部時代には、もう一つ特筆すべきものがあった。彼が4年生のとき、試合に出場しながら空いた時間では司会進行を務めたのだ。彼の司会進行は聞き心地の良いアナウンスはもちろん、500人規模の大会運営をスムーズに進行。イレギュラーな事態にも素早く対応し、滞りのない進行を実現させた。さらに驚くべきことは、男性が司会進行を務めたのは、学生競技ダンス連盟の長い歴史の中で安福さんが初めてだと周りから言われたそう。安福さんの登場以降、男性が司会進行を務めるのは珍しくなくなり、安福さんはそんな男性司会者のパイオニアとして活躍した。
全日本学生競技ダンス選手権大会(通称:冬全)の優勝について
安福太郎さんが4年生(2022年)のときに達成した冬の全日本学生競技ダンス選手権大会、ルンバの部優勝という快挙。当時の心境をいま改めて振り返ってもらった。
「当日はプレッシャーによってトイレに駆け込むほどの吐き気を催し、さらには司会進行の仕事もしていたため極限の状態でした。優勝のコールを聞いたとき、心からホッとしました。それまで優勝や好成績を収めてきたルンバでの出場ということも全国大会でのプレッシャーにもなりました」
つないだ手を通じてわかる、相手の不安。震える足に喝を入れ、フロアに立つ。それらを乗り越えた先に、勝利を祝福する会場のライトが彼らを照らした———。
そんな安福さんだが、優勝直後の仲間たちによる胴上げの際、飛び込むための踏み込みをしたときに足が限界を迎え疲労骨折してしまったそう。「次の日松葉杖で飲み会に向かったことは今でもいい思い出です」そう笑顔で語る安福さん。当時大学2年生で大会運営に携わっていた筆者も彼の優勝の瞬間を目撃した。優勝のオナーダンスを踊っていたのを見た直後、お祝いムードの会場をなぜか片足で駆け回る安福さんの姿が会場にあったのをよく覚えている。
そんなハプニングがありながらも全国大会優勝という称号は安福さんに大きな自信を与え、大学4年間の努力を象徴するものとなった。就活や仕事での自己紹介に使えることは彼の活動の幅を広げてくれただけでなく、なによりも優勝を通して当時のダンスパートナーとの仲が深まったという。
大学4年間を通して得たもの。それは彼のこれからを生きる自信と仲間だ。
https://youtu.be/l1NZQZs6g6c?si=Mv4IsnGp7zN3C9zv
2022年冬の全日本選抜学生競技ダンス選手権。ルンバの部優勝のオナーダンス。
アナウンサーとしての使命感
大学4年間で培った、常に周りを見て場を明るく活性化させていく姿勢は、アナウンサーとしての仕事にも表れている———。
アナウンサーという仕事においても、自分の存在意義は”楽しいを作り出す”ところにあると語る安福さん。現在テレビ山梨にてMCを担当している平日夕方の情報番組「スゴろく」では、安福さんはもう一人のタレントと進行していくことが多いが、そんな中でもワイプ(VTR中、画面端に映し出されるキャストの映像)にカメラが切り替わったときの表情管理、カメラに映らないスタジオの裏側にいるときでも、できる限り笑い声を入れるようにしている。夕暮れ時のお茶の間も笑顔で照らしたいと考えているのだ。
アナウンサーの役割の根幹は災害や有事の際、報道という形で人々の命を守ることだが、彼が受け持つ1時間の情報番組の中では、「何があってもその使命は守ると思って臨んでいます」と語る安福さん。彼が常に明るさを絶やさないのは、そういった安心感を感じてもらいたいからだ。安福さんは、そんな自分の得意をさらに伸ばしていきたいと考えている。
「せっかくこの仕事に僕が選ばれたのなら、僕っぽい何かを、一石を投じたいと考えています」そう語る安福さんからは常に360°、プロフェッショナルを意識した仕事への向き合い方と、”報道”の人間としての情熱が感じられた。
安福太郎にとって競技ダンスとは
安福さんが大学4年間をささげた競技ダンスとは、いったいどのようなものだったのだろうか。
「あえて言うならば”誠実さが可視化されるダンス“だと思っています。ダンスに対する誠実さ、パートナーに対する誠実さが露骨に出るのが競技ダンスだと思うのです。これは他のダンスには絶対にない特徴で、” 人の気持ちの裏側が表れる、だからこその奥深さ” 、” 二人で踊ることの難しさ、故の面白さ” 、これらが表現されているのが競技ダンスだと思っています」
また安福さんは、競技ダンスにおける”誠実さ”とは「相手を理解しようとする姿勢」だと語る。安福さんの代は彼のパートナーを含め2人であった。彼らは4年間を通して共に踊りきり、そこには数えきれないほどの苦労と困難があった。
「競技ダンス部時代のアンガーマネジメント(怒りを理解して、コントロールするスキル)の経験は後々の社会経験に大きく影響しました。人に意見を伝えるとき、いかに感情と分離させて自分の意見を伝えることができるかということを特に意識していました。この経験はアナウンサーとしての仕事のみならず社会人になってから常に役に立っています。今求められている話は感情が必要なのか、割り切るべきなのか判断して話し合いをする。感情を伝えたいのであれば、断りを入れるか、感情を改めて言語化して伝える。相手の意見もすべて受け止めるのではなく、相手の言葉から今の相手の感情を正確に表しているものを考え、それを理解する。これらの考えが大切だと学んだのです」
安福さんに感じる器の大きさの根源は、2人一組で作り上げる競技ダンスから学んだということが実感できた。
SNSを通した活動に期待するもの
元学生競技ダンス日本チャンピオンを経て、現在テレビ山梨アナウンサーとして活躍する安福太郎さん。彼を有名にしたSNSでの活動、アナウンサーという仕事に対する高い意識、そして彼の抱く”楽しいを作り出す”理念は、彼の大学時代の経験が作り上げたものだ。
競技ダンスとの出会いは間違いなく安福さんにとって人生の転機だったと語る。二人で踊るという難しさには一言では表せない苦悩と困難があるが、それらを経験したことは彼にダンスの楽しさを教え、また人として一つ上のステージへ彼を引き上げたのであろう。
SNSでの人気を博したのも、そんな彼の理念が多くの人々の心を動かしたからであり、これからますます彼の動画で“楽しい”を知る人が増えるに違いない。
本記事は本誌「月刊ダンスビュウ12月号」にも掲載されています。






