女性ダンサーのレベルアップ
国内での今年初のビッグイベント「スーパージャパンカップダンス2025」が、3月1日・2日、幕張メッセイベントホールで開催されました。この大会はプロのトップダンサーによるセグエ競技をメインイベントしながらも、全日本選抜選手権として国内のトッププロ、アマが鎬を削る非常にレベルの高い競技会として注目されています。この大会はそれ以外にもジュニアやシニアの部門もあり、全国レベルで熱き戦いが繰り広げられました。
この大会のメインイベントであるセグエ選手権を制覇したのはボールルームでは福田裕一・エリザベス グレイ組、ラテンでは野村直人・山﨑かりん組。セグエという競技は、音楽の展開にダンスの緩急をつけ、見る側にストーリーを感じさせる技術が非常に重要で、運動能力はもちろんのこと芸術性の高さを競う競技。そのカップルの個性を各種目の特徴と織り交ぜ、確かな基本を背景にクレバーな構成演出で美しくもパワフルに踊り切るところが見どころです。
この部門でのチャンピオンカップルは、今回も見事に演じ切ってくれました。私も彼らのセグエ作品の魅力に引き込まれた1人ですが、それは彼らのこの作品への思い入れや持てる技術のレベルの高さがその背景にあるのです。全日本選抜選手権でもこの2組は完全優勝を達成しています。チャンピオンの栄冠に値する素晴らしいダンスでした。
アマチュア部門でも将来有望なダンサーが熱い戦いを展開してくれました。ボールルームでは完全優勝を飾った五月女光政・叡佳組を筆頭に、飯沼組、石垣組、米積組、ラテンでも海老原拳人・タカギルナ組、高橋組、町田組などがハイレベルなダンスバトルを繰り広げました。これらアマチュア選手の急速なレベルアップは、近い将来の日本全体のレベル向上に貢献するのは明らかです。
とは言っても、それもまだ一部のダンサーに見えるのであって、まだまだ全体で見れば不十分と言わざるを得ません。ダンサーのインプルーブとはカップルの総合力です。今後もっと世界に通用するダンサーを輩出するには、正直なところ、これまで以上に「女性ダンサーのレベルアップ、パワーアップが不可欠」となってきています。これは海外のトップコーチャーやジャッジの面々から発せられるポイントでもあり、今後日本のダンサーが世界の檜舞台で活躍するには、女性ダンサーのレベルアップなしに成し得ることはない、と私も断言します。今回のセグエチャンピオンを見ても、男性の強さを引き出す女性ダンサーの素晴らしさが存在しているのは明白で、カップルとしての総合力に大いに貢献しているのです。
昭和の時代からこれまで、「女性は先走ったことをするな。何もするな。ただフォローに徹しなさい」といった風潮があったことを否定することはできません。特にボールルームダンスにおいては、女性は男性のリードを待ってそこで初めて反応するもの、という考えがいまだに
残っているのではないでしょうか。
ところが、過去の、そして現在の世界チャンピオンを見てみれば、女性ダンサーが男性ダンサー以上の能力を持っていたと思える例は枚挙にいとまはありません。日本でも、素晴らしい女性ダンサーと評されて成功を収めたカップルも数多く存在します。素晴らしい女性ダンサーを数多く育てることで、男性ダンサーのレベルも必然的に上がることでしょうし、その良好なサイクルが近い将来の日本のダンスを変えるベースとなるのです。 何をすべきかを一言で言うのは不可能ですが、女性ダンサーとして前向きに取り組むときに外見的な見た目の強さや移動距離などだけに頼るものではありません。ダンスってどんなものなのか、何を楽しむものなのか、といった全くの基本を再確認し、ではそのためにテンポやリズムなどの音楽の理解を深め、単純なフィガーの繰り返しで踊れる身体を作り、女性としての強さ、存在感、リズム感などの躍動が男性のリードを引き出し、誘導できる能力を身につけ高めることです。そのとき、カップルのエネルギーを倍増させる化学反応が始まり、カップルのハーモニーがストロングな存在感を醸し出していくのです。
ダンスが素晴らしいときはその素晴らしさは女性に見え、逆に不具合のあるときは、その悪い面が全て女性に見えるものなのです。女性のレベルアップは男性を変え、カップルを強くし、その結果、逞しく美しい男性の背中と女性の美しい表情とスタイル、そして魅力ある大き
な空間を生み出すことでしょう。カップルの成功への道は男性の責任ではありますが、さらなるインプルーブのためには女性の役割は非常に大事であると言っても過言ではないのです!
息を呑むほど美しくエレガントなダンサーたちによって、フロアいっぱいに花が咲き誇るシーンを早く見たいものです。
(月刊ダンスビュウ2025年5月号掲載)