中国・北京での競技会に参加して
2025年4月9日(水)から13日(日)の5日間、北京のオリンピック公園内にある国家体育館で「2025 Masters Cup Ballroom Beijing Open」という大会が開催されました。私はこの大会の審査員として招聘され、中国やイタリア、ロシアなどから参加したジュブナイルやジュニアのソロ競技から世界トップクラスによる白熱したパフォーマンスまで、大会の審査をさせていただきました。今回は、これまでに上海や深釧の大会に参加したときとはやや趣の違った感覚を覚えましたので、それをお伝えしたいと思います。
このビッグイベントは中国の首都・北京での開催で、会場はオリンピックの室内競技に使われた国家体育館、しかもその開催期間が5日間と長く、連日早朝から夜遅くまで熱戦が繰り広げられました。ただ、日本での大会とは違い、一般の観客はゼロ、フロアサイドに用意された円卓は出場選手とその家族のためのもの。夜の部のメインイベントが始まっても一般席に人の姿を見ることはありませんでした。 円卓にはVIP、スポンサー関係者、大会運営関係者、そして出場選手とその家族だけが座り声援を送っているといった感じで、ブラックプールのウィンターガーデンが人で埋め尽くされる熱気や、日本武道館が満杯になって会場がどよめいていたあの雰囲気とは全く違うものでした。あの大きな会場に人の姿を見ないことに違和感を覚えたのは、私以外の海外からの審査員も同じだった様です。
そもそも中国で、このような大会の開催にあたっては、単なる営利目的ではない背景があるようです。共産圏でのこういったビッグイベントは、やはり非営利法人が主催し、今回は中国メディアグループという通信系の巨大企業が運営しており、数々の中国企業のスポンサードにより大会が開かれたものと思われます。非営利法人にしてもその設立にはかなりの資金が必要で、開催するに十分な資金が背景にあるということなのでしょう。
そしてその目的は、やはりダンス界でも世界一を狙う中国の思想的なものが根本にあるのではないでしょうか。教育の中にダンスが存在し、優秀な人材が世界の大会で好成績を残し、その成功者が国へ戻ってその教育システムの中で後進を育てる好循環を作り上げているようなのです。それをスポンサー企業や芸術&スポーツ基金などの援助で、さらに充実した環境作りを強力に推し進めています。世界のトップコーチャーを中国に招聘し、世界のダンス界とも非常に強いつながりを持ち続けているのですから、政治的にも強くなって当然です。
北京でも舞踏学院やダンスアカデミーが存在し、ダンスの英才教育をしていく過程でこのような大きな大会に参加。その一つの例として、これらに通う生徒たちによるフォーメーション発表の場が設けられていました。まだ若いグループの作品は、なんとか形にはなっているものの、キレも悪くダンス自体のレベルもそう高くはありません。ところが年齢が上がっていくにつれて、そのレベルは俄然高くなっていきます。普段のクラスでトレーニングしていると思われるアクションを非常にクレバーに振り付けし、見事なフォーメーションに仕立てていました。フォーメーションを作っていくことは、メンバーの仲間意識を向上させ、同時に競争本能をくすぐるやり方であるとも思えます。ブラックプールのフォーメーションマッチで素晴らしい演技を見せたチームの演技を見ることができましたが、中国の文化や歴史を背景にしたストーリー性溢れる渾身のパフォーマンスでした。
毎日のトレーニングにより確実に踊れる身体が出来上がっている証明なのですが、そのカリキュラムの中にはバレエのトレーニングは必須で、フォーメーションなどへの参加で色々なダンスの要素を学んでいく良いチャンスにもなっています。その後、ラテンやボールルームへ専門的に別れていき、さらに強化しつつ世界に通用するダンサーを生み出す路線が確立されているのです。
さらに、この大会には高額賞金が提示されており、競技会に世界のトッププロたちも果敢に参戦。レベルの高い競技が繰り広げられました。プロラテンではドーリン・フレコータヌ&マリーナ組、ボールルームではドゥーサン・ドラゴビッチ&バレリア組が優勝を遂げました。
そして大会4日目の夜には中国とタイの国交50周年を記念する祝典が催され、中国ダンス界でもそれを祝うべく、中国とタイの2カ国の代表者によるチームマッチ、そして優勝者4組によるデモンストレーションがあり、この祝典に花を添えていました。
この競技会の開催意義は、ダンス界だけのイベントではなく、政財界やビッグスポンサーとの接点やつながりをより深いものにしている点は、大いに学ぶべきところだと感じ入った次第です。
(月刊ダンスビュウ2025年6月号掲載)