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コラム&本誌企画

ブラックプールダンスフェスティバル

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 今年で99年の歴史と伝統を誇る「ブラックプールダンスフェスティバル(全英選手権)」が華やかに開催されました。コロナ禍が明けてからのこのフェスティバルは、5月中旬から下旬までの2週間近く開催されており、前半はプロアマの大会を中心に展開され、後半が従来の全英選手権として開催されています。今年はプロアマの初日が5月18日(日)で、5月23日(金)から従来の全英選手権が開始、30日(金)に千秋楽を迎えるというスケジュールで開催されました。

 今年も21歳以下、35歳以上シニア、50歳以上シニア、プロライジングスター、アマチュアライジングスター、プロチームマッチ、アマチュアチームマッチ、そして本戦の全英選手権と多くのセクションで連日白熱した競技が繰り広げられましたが、今年はさらに「アマチュア19歳以下」のカテゴリーが追加され、あの広いエンプレスボールルームを所狭しと若いエネルギーがほとばしっていました。

 後半初日のプロライジングラテンが始まると大会のレベルは一気に世界レベルとなります。そして2日目の土曜夜は恒例の「プロチームマッチ」が開催されますが、このチームマッチはフェスティバル注目の一大イベントです。世界チャンピオンやファイナリストたち、世界のトッププロが顔を揃えるのですから、フェスティバルの雰囲気は一気に最高潮に達するというものです。

 日曜=アマチュアライジングスター、月曜=プロボールルームライジングと続き、火曜日からアマラテン選手権、水曜=アマボールルーム選手権、木曜=プロラテン選手権、そして金曜=プロボールルーム選手権と続き、連日夜遅くまで大いなるバトルを展開。これぞ全英!この興奮に包まれた空間を肌で感じ、選手であるなら、あの興奮の中でセミファイナル、ファイナルを踊ることを夢見て挑戦を続けるのです。この盛り上がりが、ブラックプールが世界最高峰と言われる所以なのです。

 ライジングスターセクションでもかなりのハイレベルな戦いですが、アマチュアラテンが始まると世界のレベルは見るものを更に圧倒します。鍛えられたボディを持つ若いダンサーたちはパワーとスピード、タイミングの素晴らしい躍動を見せ、第1種目のチャチャチャから会場は大声援と拍手が湧き起こります。もちろん激戦を勝ち抜いたファイナリストたちのバトルでは、曲の途中ですでにスタンディングオベーションとなり会場は大盛り上がりです。それはアマボールルームでも同じ。エンプレスオーケストラのパワフルな演奏もダンサーたちにエネルギーを送り込み、パフォーマンスのレベルはさらに上がっていくのです。

 フェスティバルの最後はプロラテン、プロボールルームのセクション。プロラテンでは昨年に続きドーリン・フレコータヌ&マリーナ組が貫禄の連覇を遂げました。1月のUK選手権でもチャンピオンにかなり急接近してきたニノ・ランジェラ&アンドラ組も素晴らしいダンスを披露し、パソドブレではドーリン組を抑えて1位を奪取するなど総合2位の成績を収めました。ショーマンシップ満載でパワフルなキリル・ベロルコフ&バレリア組が3位の座に輝き、以下、パベル・ズヴィチャイイ&ポリーナ組、アンドレ・カズロフスキー&ニノ組が5種目でファイナル入りし、クレメン&アレクサンドラ組、サルボ&アレクサンドラ組、ピーター&ジア組が種目別でファイナル入りを果たしました。皆素晴らしいダンサーばかりで、今後のバトルはさらに激化すること必至でしょう。

 最終日のプロボールルームではドゥサン・ドラゴビッチ組の連覇なるか、そして次代のチャンピオン候補グレン・リチャード・ヴォイス組がどこにランクするか、新ファイナリストが誰になるのかなどに注目が集まりました。優勝の栄誉に輝いたのがドゥサン&バレリア組。気合いの入ったダンスとその集中力の凄さは彼らの存在感を特別なものにしていたように思います。他の追随を許さず貫禄の連覇を達成しました。伸びやかで美しいダンスで会場を魅了したグレン&キャロリー組が2位の好ポジションにつけ、イゴール・レズニック&リカ組が堅実でパワフルなダンスで3位の座をものにし、以下マディス・アベル&リイス組、アレックス・グンナーソン&エカテリーナ組と続きました。そして、種目別で中国のエリック&アンナ組とフィリップ&ジョアン組がファイナル入りし、中国勢が2組ファイナルに進出するという今の実力を証明する形となりました。

 来年100周年を迎えるブラックプールダンスフェスティバル。オーガナイザーから「全てのダンスを愛する人々が集まり、素晴らしい記念の大会になるよう」呼びかけがなされたのですが、これはかなり異例なことで、それだけ今の「2つのブラックプール」が存在すること自体が、極めて不自然なことのように感じます。現に「もう一つのブラックプール」を運営サポートする面々は、今大会には不参加で、来年の100周年大会にしても全てのダンス人が共に集まり祝福できるかどうかは、今のところ不明です。

 政治的な軋轢で別れてしまうのは、その業界の衰退の始まりであることは歴史が物語っています。来年の100周年がダンス界の再結成と、次の100年の輝ける幕開けとなることを願って止みません。

(月刊ダンスビュウ2025年8月号掲載)

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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