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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

「改めて今、思うこと」

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かなり前のことになりますが、「競技ダンスが社交ダンスを悪くしている」という投稿を、とあるダンス雑誌で読んだことがあります。社交ダンスを楽しむべきパーティ会場で競技ダンスをやっているカップルが我が物顔で、そしてこれ見よがしに肘を大きく張り踊りまくっていたのだそうです。社交ダンスを楽しむ参加者にとっては危険極まりないもので、それは明らかにマナー違反。競技ダンスは危険な行為をひけらかすだけでなく、社交ダンスの品を悪くするのではないか、というような内容だったと記憶しています。

「時と場所、場合に応じた方法・態度・服装等の使い分け」を意味する「TPO」という言葉があるように、パーティを楽しむ場ではもちろんそれにふさわしいマナーがあって然るべき。空気が読めないのは個人の資質の問題であろうと思いますが、残念ながらそんな迷惑行為が今でも現実にあるようなことを耳にします。

私は夢のある、美しく伸びやかな、パワフルで時にスポーティーでかつエレガントなダンスを見たいと願っている一人なのですが、競技会での選手諸君のダンスを見ていますと、「ボールルームダンス」を楽しむ延長での競技であるにもかかわらず、その時の勝ち負けにこだわった「競技ダンス」に没頭しているのではないかという感覚を覚えずにはおれません。皆が「カップルとして将来に夢のあるダンスに取り組んでいく」ことは、指導する者も現場で踊る者も共通の姿勢であって欲しいと願うのです。

前号で私は「競技を楽しむとは」ということに触れましたが、背景に「皆が求めているエレガントなボールルームダンスのスタイル」があることが絶対条件です。パートナーを力任せに振り回すような無駄な動きを見せびらかしているようでは、その時の競技では勝っても、夢に向かってさらに発展して行けるチャンスはないのです。ボールルームダンスの基本動作がどんな構成でできているのかを理解し、それができる身体作りを繰り返す中で、タキシードやスーツを粋に着こなし、おしゃれなイブニングやドレスでその場での会話や雰囲気を楽しみ、スマートに音楽とステップ、二人の距離感を楽しむ、、、そんなキラキラとダンスを楽しむ人々が増えて欲しいと願うのは、ダンスに携わっている者なら皆同じはずなのです。

 

様々なスポーツで変革が求められている今、

ダンス界も〝文化としてのボールルームダンス″の定着を!

かつて日本のダンスが隆盛を誇ったのは、健全な「競技ダンス」の開催によるランキング制度、それに伴ったテストによる「メダルテスト」の実施などが背景にありました。戦後のキャバレーダンスとは違った、健全な社交ダンスブームが起きたのです。

かつてサンケイ杯と呼ばれていた全国大会は1980年に「日本インターナショナルダンス選手権大会」となり、その記念すべき第1回大会の模様をNHKがテレビ放映しました。私が大学に入学し、大学の舞踏研究会に入部したばかりの夏のことで、先輩の家に呼ばれ大会の模様を食い入るようにテレビで見たものです。

そして、そのブームにさらに火をつけた番組があります。NHK教育テレビの「趣味百科」、NHKが初めて日本人の趣味の一つとして社交ダンスを取り上げたのです。最初の講師は篠田学・雅子先生でした。その番組の第1回放送(1984年)を、私もテレビの画面にかじりついて見ました。確か当時のラテンチャンピオン、奥村三郎・純先生も登場され、ディスコダンスのようなステップを軽やかに披露されていたのを覚えています。雅子先生が、10cmはあろうかと思えるピンヒールを履いていたのも、非常に新鮮な驚きでした。そして番組でのダンスはとってもスマートでおしゃれ。NHKが取り上げたくらいですから、当時の日本人が飛びついたのもわかる気がします。NHKはそれこそ全国津々浦々をきっちりカバーしていますから、社交ダンスブームが一気にやって来たのです。

時代は移り、今や日本社会におけるボールルームダンスの認知度は相当に高くなったと思います。テレビドラマでも取り上げられるほどです。しかし、実際にボールルームダンスが、日本社会の中でおしゃれでスマートなマナーとしての文化的位置付けとなっているかというと、残念ながらそれには疑問符が付いてしまいます。

一部の特殊な能力を高めた人間同士が、スポーツと称して競技会でそのパワー、スピード、回転の多さや速さ、トリッキーな変化などを駆使しながら技を競うそのスタイルは、時代の要求に応えている証であろうと思います。しかし、それはある意味、アクロバットであり、そのダンスを見て、夢のあるダンスとして「自分もやってみたい!」と思う人は残念ながら少数なのではないでしょうか。

ボールルームダンスはマナーであり、スマートでエレガントなものです。それにスポーティーな側面、時代が要求する流行も取り入れながら発展していくのは当然の流れですが、カップルの無駄な動作を排除しつつ、より合理的に入れ替わっていくムーブメント、美しいスタイル、クリアなタイミング、軽やかなフットワークに何ら変わることはありません。人はそこに普遍の価値を見出し、その動きに夢を感じられるとき、文化としてのボールルームダンスが定着していくのだと私は思います。

いろいろなスポーツの世界で変革が求められている今、ダンス界も、ダンスを愛する者の集まりであるなら、皆で今やっていることの見直しや軌道修正をすることも必要なのではないでしょうか。

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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