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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

勝負強さとは

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 5月。競技ダンスの世界では、海外で研鑽を積むには最も適したシーズンです。英国ロンドンやブラックプールで開催される競技会に出場し、チャレンジをするために、世界各地からトップダンサーたちがロンドンの有名スタジオにやって来て、大会前の最後の調整をしつつさらに磨きをかけるのです。本番さながらのハイレベルで踊りつつ、ライバルとの競争力を高めるダンスキャンプや練習会に参加するのもこの時期ならでは。それこそ日常から離れたダンス漬けの1カ月となるのが、この5月なのです。

 ブラックプールで開催された「The Open Worlds」を終えたばかりのこのタイミングで、「勝負強さ」というものについて、今改めて考えてしまいました。世界から集まってきたダンサー達のレベルは相当に高いものですし、フロア上での勝負強さも半端ではありません。世界レベルのダンサー達は踊れる自由があって然り、カップルとしての時間、空間、リズム、エネルギーレベル、スピードの緩急などが、カップルの特別な雰囲気やカリスマ性となり、その魅力を発散するのです。

 しかし、そんなカップルにも、見た目にはほとんど見えない部分で、そう簡単に見抜けないほどの小さな小さな不具合は存在するものです。レッスンではその不具合の修正が非常に大切で、多大な時間を費やすこともしばしばです。その小さな不具合の発見と修正によって、彼らの「勝負強さ」は格段にアップします。カップルの存在感は高まり、ムーズメントの質も明らかに向上しますから、フロアを我がものとして支配する能力を発揮できるようになるのです。

 要するに、ダンス競技は、それまでに培ってきた踊れる自由に強さが加わり、さらにフロア上を自由に駆け抜けていける「フロアクラフト」と言われる能力が発揮できるか否かが勝負の大事なポイントになると言えます。

 競技の場で普段以上のレベルで踊れる能力を発揮したり、フロアを我がものとして支配することなど、誰かにつきっきりで教えてもらってできるようなものではありません。人はそれを「センス」と言い、持って生まれた天性のものと言う人もいます。しかしそれは「1%の才能」であって、「残りの99%は本人の努力」なのだと私は思います。もっとも「努力」という言葉、それも変な言い方かもしれません。プロであろうがアマチュアであろうが、競技の世界で勝ち上がっていける人は、それが「努力」や「我慢」だとは感じておらず、普通のこととしてやっているだけなのですから…。

 「競技を楽しむとは、いかにして勝つかを考えて実行すること」

 勝つためのセンスの良さとは、LOD の何たるかを知り、Across The Floor と言われるフロアクラフトの奥義に近づくべく、基礎から応用に転じていける知識レベルと身体能力を高めること。そして、実際の戦いの場に身を置き続け、経験値を高めることしかありません。

 見た目の強さで言えば、肉体的な側面もあるでしょう。自身が弱いと感じるならジムに行って鍛える必要があるかもしれません。それ以外に音楽的な強さももちろん基本になければなりませんし、勝負に向かうためのメンタル・タフネスも勝負強さには不可欠なものです。

 加えて、これはどんなレベルの人にも言えることだと思いますが、上達のためには決して無理な計画の実行ではなく、ルンバウォークやタンゴウォーク、スウィング練習の繰り返しが最も大切で、そんな最も地味で効率の悪そうに見える「基本練習の繰り返し」が、実は成功への一番の近道に他ならないのです。そうしたことは、ピアノやバイオリンなどの楽器の演奏でも言えることで、楽器を手にした瞬間から一流アーティストの如く演奏できることなどあり得ない話です。

 人にはそれぞれ自分の好みがあって当然です。しかしそれを「自分なりに」とか「自分らしく」と言ってしまうのは、自分が甘い方向に進んでしまうだけ。単に「自分の悪い癖」を正当化するだけのことです。だからこそ、きちんとした正論を身につけなければならないのです。それが出来たときに、その人にしか出せない、誰にも真似のできない「個性」として輝き始めるのです。

 戦いの場が地方のクラス別の競技会であろうと、ブラックプールでの世界大会であろうと、ダンスをする以上、何を良しとするかは同じことなのです。正々堂々と正論を持って「客観性のある自己ベスト」を目指し、日々「勝負に勝つ実践」を楽しんでほしいと願います!

(月刊ダンスビュウ2026年7月号掲載)

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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