全英、そして日本インター
今年100 周年を迎えた「Blackpool Dance Festival」は、連日満席となる盛況ぶりを見せました。伝統あるあのウィンターガーデン内のエンプレスボールルームのフロアでは、世界のトップダンサーたちが夢の競演を繰り広げ、毎夜熱い戦いに観客は酔いしれたのです。
100 周年のこの大会では昨年の覇者ドゥサン&バレリア・ドラゴビッチ組が、チームマッチでのダンスを最後に引退を表明したことで、プロボールルームの新チャンピオンの行方に注目が集まりました。その栄冠を手にしたのはスタス・ポルタネンコ&ナターリア組。ドゥサン組の引退とスタニスラフ・ゼリアニン&イリーナ組が欠場したこともあって、追随する英国のNO.1カップル、グレン・ボイス&キャロリー組を抑え、見事100周年大会のチャンピオンに輝きました。
アマチュアボールルームでも新チャンピオンの誕生です。イタリアのマルコ・シロッキ&ドーラ組です。決して大柄ではありませんが、躍動感あふれるエネルギッシュなクイックステップを得意とし、タンゴやスローフォックストロットなどでも彼らが魅せる音楽的表現力はずば抜けています。このマルコ組をはじめ、アマボールルームは充実しており、近い将来、彼らがターンプロする頃には、今とは違うさらに進化したバトルが展開されることは間違いありません。
ラテン部門はアマ、プロを問わず、恐ろしいほどのパワーとスピードでエネルギーがほとばしる、完成度の高いダンサーが目白押しです。その頂点に立つのがドーリン・フレコータヌ&マリーナ組で、その躍動感は言うまでもないこと。彼らの持つ独特な世界観、空気感、支配能力が、他のトップクラスとは違う魅力になっています。パートナーのマリーナの強さ、しなやかさもピカイチです。
日本人選手は5月上旬の「The Open Worlds」のライジングスターで、プロデビューを優勝で飾った五月女光政・叡佳組に注目が集まりました。パワフルで伸びのあるムーブメント、その音感の良さを高評価する声も多く聞かれましたが、全英プロライジングは惜しくもセミファイナル。最終日のプロボールルームもベスト24に一歩及ばず。現日本チャンピオンの福田裕一・エリザベス グレイ組が、心身ともに充実していた好調さを示し、ベスト24にクイックステップで入り、その存在感を示しました。
ただ全体的に日本人ダンサーたちの成績は芳しいものとは言えませんでした。やはり短期海外遠征で、世界のトップダンサーたちに混じって参加するダンスキャンプなどでは、目に入ってくる情報から外見的な強さや速さに走ってしまう傾向は否定できないでしょう。フロア上での勝負強さは、外見的な筋力に頼って生まれるものではないのです。それを超えていくにはじっくり時間をかけ、身体に頭に染み込ませることが必要でしょう。
そして、戦いの場は日本国内の「第47回日本インターナショナルダンス選手権」に移されました。今年はボールルームで全英第3位に躍り出た中国のマイケル・タン&アニー組と、ラテン世界ファイナリストのパーシャ・ズヴィチャイイ&ポリーナ組を迎え競技が進行しました。日本選手も英国やイタリアで相当な刺激を受けて、脳も身体もだいぶ馴染んできたのでしょう、全英選手権のような何かに煽られているようなダンスとは全く違う、水をえた魚の如く生き生きとしたダンスを予選から見せてくれました。
優勝は全英3位の実力そのままにマイケル組が完勝。彼の身体能力の高さとパートナー、アニーの絶妙なフォロー術。カップルの魅力を存分に発揮していました。準優勝は福田裕一組。予選からハイレベルなダンスをコンスタントに踊り続ける集中力、フロアを自在に駆け抜けるフロアクラフトの良さはさすがでした。若きチャレンジャーの五月女光政組も日本デビューを第3位で飾ったことは実に立派。早くもこの秋シーズンでの更なるレベルアップに期待したいものです。
ラテンでも全英ファイナルのパーシャ組が力強くも繊細、とてもエレガントなダンスで会場を沸かせました。ラテンダンスの特徴といえばタイミング、リズム、ボディシェイプ、コネクションなどが挙げられますが、どれをとっても一級品で、それらを非常に高い次元で自然にこなしていく能力はさすがです。日本チャンピオンの野村直人・山﨑かりん組も世界レベルに到達しており、今回も素晴らしいダンスを見せてくれましたが、中国のチュアンチュン・ロー組に1ポイント差で惜しくも3位となりました。
今大会では素晴らしいオーケストラ演奏で、大いに盛り上がりました。全英で毎年スタンディングオベーションが沸き起こるのも、あのエンプレスオーケストラのパワフルな演奏があるからです。ダンス競技は、踊るカップルの素晴らしさに加え、衣装やヘアメイクも大事です。そしてそれらをさらに特別なレベルに押し上げるのが、音楽と照明なのです。今年の日本インターは、ダンスと音楽で会場が一体となった素晴らしい大会と、大いに評価できるのではないでしょうか。
(月刊ダンスビュウ2026年8月号掲載)



