発想の「逆もまた真なり」
昨年以上に暑くなると予想されている今年の夏。何をするにも熱中症予防を最優先にしておかなければならないでしょう。ダンスは空調の効いた室内でするものではありますが、動けば体温も上がり汗もかくことでしょう。こまめな水分補給を心がけながらダンスを楽しむことにしましょう。
さて、7月号で「勝負強さ」について触れましたが、フロアの上での立ち姿、その美しさ、強さ、存在感がまず基本になることは当然のことで、それがカップルになった場合、二人のシルエットの美しさ、一体感、ホールドの無理のないオシャレ感、空間の大きさなどが特別な雰囲気を醸し出します。そんな美しいカップルがどのような魅力的なムーズメントを繰り出すのか、想像するだけでワクワクしてくるものです。
ところがそんな美しいカップルも、ボールルームダンスの種目の特徴や、各種目のフィガー構成などの理解が足りなければ、美しく強いムーブメントや流れを生み出すことはできません。「勝負強さ」は「まぐれ」でできるものではないのです。「社交ダンス」がどのように展開すれば、より強く、美しく、魅力的なダンスになるのか、その「技を競う」のが競技ダンスの真髄ではないでしょうか。今回はそのスタイルについて話を進めたいと思います。
競技では「見た目の強さで勝負」と言わんばかりに膝を曲げ、脚を開き、お腹を引っ込め、首を伸ばし、肘を張って、持てる筋力を頼りに大きく動くことを求めても、それははっきり言って報われることのない、無駄な努力と言わざるを得ません。
かつて、風営法からの脱却を目指し始めた頃、健全な生涯教育の一つとしてダンスを広めようと、正しいフットワーク、方向、回転量を英国式ダンスに求め、広めていったのです。それをさらに助長させることになったのが「競技スタイル」でした。スポーツ性を重視し、その鍛えられた身体を駆使した大きな動きが特徴で、その典型的な動作をマスターさせる方法が、首を伸ばして、肩を下ろして、お腹を引っ込め、肘を張り、女性は後ろにそっくり返るというものだったのです。
確かにそう見えなければならないのも確かで、否定するものではありませんが、令和のこの時代になってもまだ、それを追い求めるのっておかしくありませんか?
元来、欧米で昔から踊られてきたダンスは、女性はエレガントなドレスを身に纏い、美しいハイヒールのシューズを履き、男性はスマートなタキシードやテールスーツで女性をサポートし、優雅に舞う。それこそが皆が憧れる、夢のあるスタイルだったのではないでしょうか。
最終的に競技に勝てるスタイルで踊ることを求めるのは、競技に携わる者すべて同じ。でもそれを初めから、最終的な見た目の美しさを維持しようと努力しても、それはかなりの遠回りで、正直に言うと、それでゴールに辿り着けたならラッキーかもしれません。
ここで皆さんに一つヒントです。それは、これまで日本人が常識と考えていたこととは反対のものになるものかもしれません。が、私はそんなちょっとした発想の転換が、次への大きな飛躍のきっかけになる可能性を感じています。
それはプロムナード・ポジション(PP)を基準にして、それをいかにクローズド・ポジション(正対)に発展させるか、というもの。普通は、いかにPPに開くかを考えますが、その反対をやってみるのです。
男女が向き合っている部分は男性の右頬と女性の左頬です。すなわち男女がペアとなって寄り添うとき、「男性の右横に女性の左前」が触れる位置関係が自然な立ち位置なのです。相撲や剣道のように対峙する位置関係では決してありません。このとき、ほとんどPPのような位置関係になっているはずです。もちろん典型的な競技ダンスのホールドなどしておらず、男性は女性のウエストあたりに自然に腕を回す動作になっています。そのままの位置関係で男性左方向に進めば、それは明らかにプロムナードとなります。それで右方向に後退すればフォーラウェイになるでしょう。
そしてここからです。その位置関係で女性は自ら変化をすることなく、男性が自身の右足のつま先を女性の立っている方向に少し床を圧しながら向けていくと、自然に男性の右腰骨の内側が女性の左腰骨の前の部分に接するように優しく展開していきます。まるで朝顔の蕾が花開いていくようにスパイラルなエネルギーが姿勢(ホールド)を展開させ、男性の右頬と女性の右頬が向き合うようになり、見事なクローズドポジションに花開いていくのです。
こういった発想の転換が、身体に見えないほどの変化を生み、さまざまなフィガーを踊りこなすためのきっかけとなるのです。これまで打ち破れなかった上達の壁が、見事に取り除かれるヒントになる可能性は大きいと信じます。勝負強いスタイルを目指すには、クレバーな発想をベースに決めていくべきなのです。
どうです? 何か閃きましたか?
(月刊ダンスビュウ2026年9月号掲載)



