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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

「2016全英選手権」を振り返って

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全英選手権では毎年、開催最初の土曜の夜に開催国である英国チームに対抗する形で計4チームによる「国際インビテーションチームマッチ」が開催されています。各チーム、ボールルーム2組、ラテン2組の各種目2ヒートを行ない、種目ごとの得点を加算し10種目で競われます。世界のトップクラス16組によるダンスバトルですから、それは見応え十分。会場は大きな声援に包まれました。

今年は開催国の英国チームの他、ヨーロッパ、アメリカ、そしてアジアチームの4チーム。かつては私も、ジャパンチームの一員としてこのチームマッチに参加したことがあります。そしてこの度、引退後18年を経て、初めてアジアチームのキャプテンとして、精鋭4組を率いてこのイベントに参加させていただきました。

今年のアジアチームはボールルームがヤンチャオ&キャロラン・タン組、橋本剛・恩田恵子組、そしてラテンが金光進陪・吉田奈津子組と中国のワン・ジィロン&セリーン組の日本と中国を代表する4組。対するヨーロッパチームにはドーメン&ナターシャ組、ヴァレリオ&モニカ組がいて、アメリカチームにはアルナス&カチューシャ組、ビクター&アナスタシア組、ラテンがリカルド&ユリア組、マウリツィオ&アンドラ組という超豪華メンバー。そして英国からはボールルームにアンドレア&サラ組、ラテンにニール&カテリーナ組らが出場しました。

名前と実績からしてアメリカチームのダントツ1位は譲るとしても、アジアチームはヨーロッパチーム、英国チームと同点、いやそれを上回っていた種目もありました。結果は4チーム中の4位であっても、ダンスの中身は上出来! 全然引けをとっていません。チームキャプテンとして大変に誇らしく思えたイベントでした。

さて、今年91回目を迎えた全英選手権。今大会を振り返ってみると、瀬古薫希・瀬古知愛組のライジングスターL第6位入賞やOver50シニア戦で松村健樹・栄子組の準優勝など嬉しいニュースもありましたが、やはり全体で見ると日本勢の成績不振がさらに顕著になってしまったと言わざるを得ません。もちろん必死に世界にチャレンジする姿勢は皆同じですが、現状は世界に相手にされていない感覚を覚えるのです。日本人カップルが大挙して全英に挑むのは今に始まったことではありませんが、今回は、3次予選の手前でほとんどが姿を消す結果になってしまいました。

ではなぜこのような傾向になってしまっているのでしょう? それは結局のところ、日本には競技選手が非常にたくさんいるにもかかわらず、ほとんどが世界が認めるダンスのレベルに到達していないことが挙げられます。悲しいかな、これが現実なのです。

予選敗退の選手と話をする時、よく彼らが言うのが、「自分では良く踊れたと思うのに……」という言葉。それは、良く踊れたという希望的主観であって、客観的に世界のトップと比べて優れているのかというと、残念ながらまだそういうレベルではないのです。

レッスンの時にコーチャーが「Much Better(ずいぶん良くなった)」と言うことがありますが、それは他のカップルと比較してではなく、レッスン中にそのカップルのダンスが良い方向に向かい、最初のダンスよりも今の方がBetterであるという意味で、それが即コンペで勝てるダンスだという意味で言っているのではありません。その「Much Better」と言われたダンスを続けていくことで将来的に上達し、コンペでも通用するレベルに到達することを期待して言っているのです。

他の理由としては、世界的にトレーニングキャンプが盛んに行なわれるようになり、ダンスがより科学的なアプローチで新たな展開を見せていますし、例えば中国などでは舞踏学院というダンスを専門にする学校で取り組んでおり、ダンスの基礎から鍛えられたダンサーが非常に多くなっていることも挙げられると思います。

最終予選の5次に進めるのは世界のトップ48組です。この48の枠の中に日本人の名がほんの1、2組しかないのは、まだ無名であってもそれだけレベルの高いダンサーがひしめき合っていることを意味します。

ただ、私には、世界が認めるレベルにあるダンサーの数は相当数に上りますが、レベル自体はそう上がっているようには思いません。日本人がなかなか到達できないレベルにいて、日本人の「壁」になっている世界のダンサーが、かつての私たちの代よりも3倍も4倍も増えているのですから、結局準々決勝のトップ24や最終予選の48に入り込むことが難しくなっているのです。

しかし、それであるなら自分の殻を破り、それこそ「ど根性」で練習を繰り返す。そしてその「壁」にぶち当たりながらも何度もチャレンジを続ける。コーチャーにも食らいつく。まずは、48や24を超えて、一気にセミファイナルへ突入できるチャンスを掴まないことには話は始まりません。理論を理解し、間違いや思い込みを修正し、繰り返し身体に叩き込む、そうやってこそチャンスは生まれるのです。人に上手くしてもらうのではなく、自分を強く持ち、上手くなる努力を続けるしかないのです。

今が底なら、何をやっても上に向かって行けます。「やる!」と心すれば良いだけのことです! そのことを信じて、新たな方向性をクリアにしていこうではありませんか。

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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