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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

この政情不安に思う・・・

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先月号でも紹介しましたように、最近のウクライナ勢の大躍進には目を見張るものがあり、若い選手たちのあの伸びやかなパフォーマンスの背景には、首都キエフを中心とした素晴らしい芸術と文化の歴史と、ソビエト連邦から独立した自由との融合があったからだと思います。

ところが2月24日、ロシアがウクライナに侵攻を開始するという、とんでもない事態が起こってしまいました。「コロナウィルスによる脅威」がようやく収まりかけてきたと思ったら、今度は「人間による脅威」に震撼させられました。

プーチン大統領やロシア政府にもそれなりの言い分はあるのでしょうが、平和に暮らす多くの民の生活を狂わせるこの戦争は、全てのバランスを一気に変えてしまう狂気の沙汰。まずはウクライナ国民の身の安全を祈りたいと思います。

人道支援の輪も広がりを見せ、欧米諸国はもちろんのこと、日本でも避難民の方々を受け入れる援助体制が整えられているとも聞きます。SNS上では募金活動がすでに大きく展開されています。私もWorld Dance Competitors Comission(世界選手会)のダンサー支援のための寄付に賛同し協力させていただきましたが、何よりも早く停戦が実現し、平和裡に解決されることを祈るしかありません。

そんな中で、日本では2月末のJDCアジアオープンから3月初めのJBDFスーパージャパン、そしてJCFユニバーサルといった全国レベルの大会が開催されました。それぞれの特色を出した大会で、激戦を制したチャンピオン、戦い抜いた選手たち、観客の皆さん、そして大会主催者は、開催できた喜びとやり遂げた満足感でいっぱいだったことでしょう。

当たり前のことが当たり前でなかったこの2年間。コロナ禍の影響も3年目を迎えてはいますが、こうしてダンスができることは本当にありがたいことと実感しています。コロナの減少傾向が続けば、春以降も各地で競技会が花盛りとなるでしょう。

とは言っても、日本のプロダンス界は難しい舵取りが迫られています。そうです、再び組織が分裂してしまった現実に直面しているのです。WDCやWDOといった世界組織の分裂に近い動きの影響を受けてのことなのですが、NDC for Japan( NDCJ)としてJBDF、JCF、JDCの3団体が一つになって運営していたところから、WDOやアジアにおいてのADOという組織を運営するJDCが脱退したことで、今年のアジアオープンにはJBDF、JCFの選手たちは出場が不可となり、逆にJDCの選手もJBDFやJCFのコンペには出場できない状況にもなっています。

団体それぞれに役職があり、選手を抱えて運営をし、そこに生活が存在します。そう簡単に統一の方向に向かわない裏側の事情もあると思いますが、長い年月をかけてもなかなか正常化できなかったものを、この10年でようやくNDCJとして同一方向に進み始め、さらに良い方向へと思った矢先に、この分裂騒動が勃発したのです。

「こんなことやってる場合じゃないでしょ」とは世間一般の意見です。「狭い日本の狭いダンス界で、こんな分裂騒動起こして、ますます弱体化するだけですよ」って声があちこちから聞こえてきます。本当にその通りで、当事者の一人としても非常に心苦しいものがあります。

今年の11月3日には、例年通りNDCJによる「統一全日本選手権」が飛天で開催されますが、今年はバルカーカップとしての開催ではありません。メインスポンサーだったバルカー社は同月の下旬に同じ飛天で「新バルカーカップ」と称した別の新しい大会をサポートすると明言しています。この大会はさらに高額な賞金が用意されているとも聞きます。日本の全選手が諸手を挙げて参加できれば、なんと素晴らしいことか。

どの組織にも主義主張があって当たり前です。その違いがあるから話し合いが持たれ、その落とし所に妥協点を見出し、それぞれを尊重していくのが社会だと私は思います。最初にお話ししたウクライナの話にしても、ウクライナの人々が望んだ戦争ではありません。なぜ一方的にロシアが侵攻していくのか? そして、この大きな世界の戦争も、この小さなダンス界の分裂も、決して望んだものではないという点では同じです。主義主張の違いや将来の不安があっても、しっかりとした話し合いがなされるべきだと私は思います。一方的な主義主張と理想の実現を強行していくことは、それこそ災難と言わざるを得ません

(月刊ダンスビュウ2022年5月号掲載)

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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