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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

「インターナショナル選手権」を審査して

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 私は昨年に続きロイヤルアルバートホールで開催の「インターナショナル選手権」(ロンドンインター)最終日の審査を担当させていただきました。昨年のファイナリストとセミファイナリストに加え、英国南東部のギリンハムでの予選会を勝ち抜いた精鋭たち総勢50組が、最高に華やかなロイヤルアルバートホールのフロアで踊ることができるのです。

 大激戦の予選会をクリアして最終日にコマを進めた日本人カップルは、ボールルームの福田裕一・エリザベスグレイ組とラテンの野村直人・山﨑かりん組。いずれも本戦の準々決勝、トップ30組に進出し、その存在感を大いに示してくれました。セミファイナルに進むことは叶いませんでしたが、その成績は賞賛に値すると思います。さらに経験を積み、どんな会場のどんなフロアであろうと、さらに生き生きと振る舞えるほどの存在感を目指していってほしいと願います。

 というわけで、今回は少し趣向を変えて、ジャッジの目線からのダンスのお話をさせて頂きます。私が審査担当したのはアマチュアボールルーム部門の1次予選とセミファイナル、そしてプロボールルームの2次予選とファイナルです。1次予選は出場50組を3ヒートに分けて30組をピックアップしていきます。

 各ヒート平均10組を選出するのですが、アマチュアといっても彼らは世界のトップ50ですから、そのスタイルやエネルギーレベル、パワー、スピード、そして美しさは甲乙付け難いものがあります。最終的なジャッジは、外見的なスタイルやフットワーク、ポジショニングなどの判断になるのですが、よりよく見えるカップルは、伸びやかでアクセントの効いたミュージカリティ(音楽性)やスタイルや空間の美しさ、入れ替わりの絶妙なタイミング、そして美しい表情などが合わさって、そのカップルのオーラを醸し出しているのです。

 さらに2次予選は激しいバトルの場となります。プロボールルームでは、1次を勝ち抜いた世界のトップ30組の中からセミファイナル14組をセレクトしていくのですから、その作業は困難を極めます。実績あるダンサーたちの振る舞いにミスを発見することは難しく、さらにレベルの高い判断が要求されます。

 が、しかし、逆にこのあたりからはセミファイナル、そしてファイナルへ進むべきダンサーたちのセレクトは明確になってくるものなのです。そのカップルが持っている才能やセンスの良さなどが光り輝き始め、10数組が同時に踊るそんな中でも、そのカップルだけにスポットライトが当たっているかのような、そんな印象を与えてくるのです。

 そうです。ファイナルに勝ち上がって行くであろうカップルたちは、この2次予選(今回は準々決勝)で一気にパフォーマンスのレベルを上げてくるのです。ここでファイナルに進んでくるであろう面々、そしてチャンピオンが誰になるかが大体浮かび上がってくるのです。すなわちこのラウンドが、勝負の鍵となるラウンドなのです。

 その理由はフロアクラフトにあると言っても良いでしょう。LODという左回りの流れの中で、4つあるコーナーからコーナーへ、そしてどのコーナーを回って次のコーナーへ向かっていくか、上位に来るカップルは勢いをなくすことなく自分たちの良さを存分に発揮できるのです――水を得た魚の如く。

 そうしたダンサーは、一つひとつのフィガーが説得力あるフルパワーで踊られることは当然ですが、その2小節という音楽の最小単位を理解したものが成し得る緩急、強弱のあるムーブメントの「うねり」を生み出すことができるのです。フィガーをこなすテクニックが良いのは当たり前のことで、そのフィガーから次のフィガーへの流れ、フロア上でのコーナーからコーナーへの展開の技、それらが美しいシルエット、スタイル、トップの大きさ、そして存在感としての強さが音楽と一体となった者がチャンピオンと評価されるのです。

 プロボールルームでは、私はスタニスラフ・ゼリアニン&イリーナ組とグレン・リチャード・ボイス&カロリー組の優勝争いであると見ました。スタニスラフ組のスタイルの美しさとカップルの一体感。エネルギーレベルの高さ、難しいフィガーを簡単そうにこなすテクニック。グレン組の若さあふれる躍動感、伸びやかなムーブメントに、アクセントの効いた音楽性豊かな表現力。もちろんエネルギーレベルの高さパワフルなベースアクションは非常に魅力的です。

 最終結果はスタニスラフ組の優勝、2位はスタス・ポルタネンコ&ナターリヤ組、3位がグレン組でした。今回のスタス組は、今年前半のやや精彩を欠いた印象が払拭され、とても生き生きとリズミカルなダンスを披露し、大接戦の第2位をものにしました。

 ジャッジはその瞬間の判断の連続ではありますが、予選から勝負のラウンドへの駆け引きを判断する側面もあるのです。最後まで集中力が途切れることなく、スタミナが切れることなく、フロアを我が庭のごとく悠々と使いこなせるものが勝者となるのです。

(月刊ダンスビュウ2025年12月号掲載)

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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