社交ダンス情報総合サイト Dance View ダンスビュウ

田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

全英選手権

Xで共有する
Facebookで共有する

 「チャンピオン欠場」のニュースから始まった全英選手権最終日。なんと常勝アルナス&カチューシャ組の体調不良により棄権するとのニュースが囁かれ、事実、3次予選から出場のシードにアルナス組の姿がないことに観客は落胆の色を隠せませんでした。が、一方でそれを事前に知っていたのか、チャンピオンを追っているアンドレア組とビクター組はその3次予選から猛ダッシュ! 次期ファイナル候補たちも、一つ空いたファイナルの席を我が物にせんと、エネルギーレベルを上げての大熱戦が始まったのです。
 5次予選からは種目ごとの単科戦。ファイナル常連もうかうかとはしていられないのがこの全英選手権。得意種目の1種目だけでもセミファイナルへ、そしてファイナルへと意気込むチャレンジャーに隙を見せてはならず、常連であっても決して気を抜かない非常に緊迫した熱戦が繰り広げられました。
 そして、ファイナルラウンドもこれまた大激戦。ファイナリストたちの最高のパフォーマンスに会場は大声援と大きな拍手、そしてクイックステップの中盤からは会場総立ちで大声援を送ったのです。これぞ全英選手権、これぞブラックプール!!
 ワルツではアンドレア組が執念で1位を奪取。もしや? の空気が広がったものの、やはりスローフォックストロットからはビクター組の実力が優った形で3種目1位を制し、念願であった全英初制覇を成し遂げました。頑丈なボディと腕の長さからくる大きなホールド、そしてパワフルなムーブメントを得意とするビクターと、とても足元が強く、しかも繊細でしなやかな印象を与えるパートナーの絶妙なフォローは、どのラウンドを見ても安定した美しいカップルバランスを生み出し、非常に存在感のあるムーブメントの中にリズム感も併せ持つ珠玉のダンスを披露してくれました。
 アナスタシアはラテンでも素晴らしい実力を持つダンサーで、大会期間中にあるブラックプール市長も参加するカクテルパーティで、なんと元世界ラテンチャンピオンのブライアン・ワトソンと躍動感あふれるジャイブを踊りこなし、やんやの大喝采! ダンサーとしての資質の高さを見せつけていました。そんなカップルの織りなすダンスは、集中力が一切途切れることなく、我々に最高のパフォーマンスを魅せつけてくれたのではないでしょうか。全英初制覇に祝福を送りたいと思います。
 3位争いもドーメン組(W4位・F4位・T3位・Q3位)とバレリオ組(W3位・F3位・T4位・Q4位)が同点で、僅差でドーメン組が3位、また5、6位争いもアレクサンダー組(5566)とマラット組(6655)が同点で、これまた僅差の勝負。総合5位にアレクサンダー組がランクを一つ上げることに成功しました。
 一方ラテンでは、リカルド&ユリアの独断場。3次予選から会場は優勝候補筆頭のこの組に大声援を送り、その応援に見事に応える完璧なダンスを披露。大会終了後の週明け月曜日に結婚式を挙げる二人は、クールさで魅せていたかつてのダンスではなく、幸せに包まれたとても暖かいものを感じさせる感動のダンスで完全優勝を成し遂げました。完全優勝、そして結婚おめでとう! 二人の素晴らしい人生の始まりを祝福したいと思います。
 準優勝のステファノ&ダーシャ組もカリスマのレベルに近づきつつある素晴らしいダンサーで、ピタリとチャンピオンの後に付けました。3位は近年急上昇のドリン&マリナ組。4位には新進気鋭のトロエルス&イーナ組、そして総合で5位から8位まではキリル&ポリーナ組、マウリッツィオの元パートナー、アンドラと組んだニノ組、ニキータ&オルガ組、アマチュアチャンピオンからターンプロしたばかりのモルテン&ロザリナ組と続きました。

日本選手に求められる世界で通用する「踊れる身体」
 そんな大激戦が繰り広げられる中、日本選手はほとんどが2次予選までに姿を消す結果となってしまいました。ラテンでは4次予選に金光進陪・吉田奈津子組の1組しか進めないという、スタンダード以上に厳しい結果。スタンダードでも4次予選には橋本組、庄司組、浅村組の3組しか進めていないのです。結局、橋本剛・恩田恵子組が唯一準々決勝の24位以内に食らいつき何とか面目を保った形ですが、世界のアマチュアからのターンプロ組には先を越され、かつて接戦を繰り広げていたライバルには、今では水を開けられてしまったのは否めない事実です。
 ここ数年、躍進著しい中国勢は、アマチュアスタンダードで優勝者を出し、アマチュアラテンでもプロでも、既に世界の顔になっているダンサーが増え続けています。ではその差は一体何でしょう?
 日本人ダンサーの多くは、やはり世界で通用する「踊れる身体」を持っていないのが現実と言わざるを得ません。中国の若い世代は、舞踏学院で日々バレエレッスンに励み、踊れる身体の基礎が叩き込まれ、その後にバレエの世界に進む者、ラテンに進む者、スタンダードに進む者、中国フォークダンスに進む者など進路が決められていくとのことで、基礎が出来上がってから専門分野に進むという現実があります。年齢の若さからくる勢いが違いますし、彼らをバックアップしている中国企業や個人の存在も見逃せません。ブラックプールの正式スポンサーが中国企業や香港や上海の資産家であり、チャイナマネーの勢いが背景にあるのも事実です。孤軍奮闘する日本のプロとは進み方が全く違うのです。
 そんな環境の違いを理解した上で、現代を生き抜く、そして将来の展望を見据えて組織もグループも個人も、時間と知恵を効率よく使う必要があるでしょう。目標設定をクリアにして、戦略的に取り組んで行かなければならないのは当然のことです。

Xで共有する
Facebookで共有する

コメントを残す

*

※必ず全ての項目へ入力の上、「コメントを送信」ボタンを押してください

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
    田中英和ダンスワールド

最近の投稿

アーカイブ

ページトップへ