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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

勘違い2

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「立っている方の足を使って踊りなさい」――これはボールルームダンスを踊る際に絶対に押さえておかなければならない鉄則中の鉄則。美しいスタイルを維持して、カップルとして生き生きと踊るには絶対に必要な条件です。体重のない方の足を動かすことで踊り始めてしまったら、パートナーとの重心移動やレッグやフットスピードを合わせることができなくなり、相手の足を踏んでしまったり、膝がぶつかってしまったりとトラブルが続発し、うまく踊ることはできません。そして踊れない以上に、それこそマナー違反になってしまいます。「立っている方の足を使って踊る.」ことは、ボールルームダンスを踊る際の「常識」なのです。

この常識が身につき、カップルでどんどんと踊れるようになると、エネルギーレベルも上がってきますから、ロアの量も大きくなり、当然動きも大きくなっていきます。競技会で大きく動くことのできるカップルが、一際、目を引くのは言うまでもないことです。

ところが、大きく動けるダンサーが集まる競技会では、大きく動けるだけでは勝てなくなっていきます。それはダンス競技が「大きく動くことだけを良しとしているのではない」からです。まずは運動ができなければ話にはなりませんが、立っている足を使って「踊る」ことは、「動きの大きさだけを求めているのではない」ことを理解しなければなりません。そこに躍動的な美しさや空間の美しさ、感動的な間や強弱のコントラストなどなど、実に様々な事柄が期待されているのです。

ところが人間というものは、ついついその言葉を真に受けて、勝手な思い込みをするもののようです。例えば競技会の途中で、コーチャーから「もっと立ってる足を使って!」などとアドヴァイスを受けたら、その選手はどのような反応をするでしょう。誰しも答えは同じ。脚力を増して大きく動こうとするでしょう。

現役の競技選手は動けて当たり前。その動けて当たり前の選手でさえ、さらに動く量のことを第一に考えてしまう。それは「競技選手の性(さが)」というものではありますが、ダンスの競技がただ単なる身体能力や体力、移動距離を競うだけのものになってしまったのでは、ダンスに夢も希望もなくなってしまいます。

 

「思い込み」や「勘違い」からの脱出が、ダンス上達に不可欠!

 

まずは足を使って動くことから始まりますが、立っている足を使って、いわゆるフットプレッシャーというものが「踊れる身体作り」に繋がっていることを忘れてはいけません。実際の動きが身体の中の充実から生まれているのであり、その程度の違いがダンスレベルの違いになっていると言っても過言ではありません。

立っている方の足を使って、もう一方の体重のない足を振る動作は、上達のために絶対必要であり、そのときのフットプレッシャーは脚の筋肉を通じて骨盤の中のインナーマッスルに影響を及ぼし、骨盤の高さも変え、ボディのトーンも強くするのです。これにより肩の力みも末端に起こりやすい硬直もなくなり、自然体でありながら、魅力あるボディに展開していくでしょう。

また、カップルの立つ位置や向き合い方なども「思い込み」でなんとなくやってしまいがちです。男性の右ボディと女性の右ボディが向き合うところに立つことが基本ですが、それぞれのボディのセンターに右へのスパイラルな強さが加わることで、お互いのボディのセンターが完全に向き合うようになります。平面的にくっつくように組むのではなく、より立体的な奥行きのあるスタイルが理想的なのです。これに「立っている足のフットプレッシャー」によって男性のあばらが女性のあばらの上に位置するような高さやアングルを持てれば、女性にとってはとても心地良い空間が提供されることになります。また同時に、男性もボディのパワーを存分に発揮し、強い存在感、女性へのサポート、推進力のあるムーブメントができる可能性が一段と高くなります。

右と右が向き合うだけで、押し合い、肘を張って胸を突き出すようなスタイルでコンタクトをしても、それは合理性のある身体の使い方ではなく、残念ながら上半身の力みを生むだけで、体力勝負を前提にした無駄の多いスタイルと言わざるを得ません。

その他にも「身体のストレッチ」も勘違いの一つにあるかもしれません。ウォーミングアップの時にするストレッチは大変に意味のあるものです。ところが競技ダンスでは「身体を伸ばしなさい」「腕を伸ばしなさい」と要求されるのは当然のことではあるのですが、実際の腕や首を伸ばしたままそれを維持する努力は、自由な魅力あるダンスとは正反対のものになってしまいます。

ボールルームには5つの接点(コンタクト)があると言われていますが、これらの接点はカップルのバランスをより良くするためのもの。骨格的にも美しいホールドの形はカップルの生み出す空間を美しく演出するのです。そういう意味でのストレッチは非常に意味のあることだと思います。

ついつい思い込みでやってしまいがちなことが多いのが、私たちのダンス。最初は見た目のコピーから始まるものですが、その見た目とは、見えないところから始まった結果です。見た目の形から安直な思い込みをして、どんどんと答えから遠ざかっていく危険性もあるのです。ダンスは人間が人間に対して行なう、とっても心地良く楽しいものです。だからこそルールも大事、マナーも大事。正しい知識の裏付けを持って、美しさと強さのある最高のパフォーマンスを追い求めていってほしいものです。

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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